What is Nostr?
ハシダ シュンスケ:kawaiii::cool_doggo: /
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2024-10-17 04:57:38

ハシダ シュンスケ:kawaiii::cool_doggo: on Nostr: クラスのいじめっ子が祠を壊してしまったのを見た。 ...

クラスのいじめっ子が祠を壊してしまったのを見た。
 翌日、怒りの表情で神様が家を訪ねてきた。

 和服を着た銀髪の中学生くらいの少女であったが頭に狐の耳が生えている。

「許さん……貴様、許さん……」
「マジですか、俺は見てただけなのに……」
「止められなかったんだから同罪なのじゃ!! 祠が再建される間、お前が飯の面倒を見ろ……ちなみにお前以外は全員祟り殺した!!」

「ちなみに親御さんの許可は取った。選択権はなしじゃ」

 頭が真っ白になりながらも、状況を整理する。
 目の前にいる神様が本物か偽物かなんてことは、この際どうでもいい。

 問題は、俺がただの町中華の息子であり――クラスで人の輪にも入れない、ただの陰キャだということだ。

「早速飯を作れ。ここは中華料理屋なんだから期待しているぞ」
「口に合わなくても、祟るなよ」

 確かに俺は、店の手伝いをしている。
 多少なら、飯も作れるが――初戦は手伝いで、親の味には敵わない。正直店も繁盛しているとは言い難い有様で、それも俺がクラスで馬鹿にされる理由になっていた。

 でも、こいつには正直恩がある。
 何より自分の飯を食いたいと言ってくれるヤツに、手を抜くのもいい気分じゃない。

(だったらもう、本気でやってやる!!)

 まずにカンカンに熱した中華鍋に挽肉入れて、塩コショウを加えた挽肉をしっかり炒め、甜麺醤と紹興酒と醤油をよく混ぜた調味液で味を付けて冷ます。
 
 鍋にお湯を沸かしている間に、にんにく、生姜、豆豉、白ネギをみじん切りにして、ニラもざく切りに切る。片栗粉と水を混ぜ。豆腐は水の張ったボールの中で、1.5cm角に切っておく。

 沸騰しない程度に豆腐を茹でる――

 ここからが、勝負だ。 
 油を戻した中華鍋に、花椒を加えて郫県豆瓣を入れる。
 にんにく、生姜、豆豉、肉味噌、一味唐辛子を加え、香りが立ったら挽肉を戻す。

 たまり醤油と砂糖で味を調えて、茹でた豆腐と中華スープを加えて一煮立ちさせる。水溶き片栗粉でとろみをつけて、ラー油をしっかり入れると――真っ赤な麻婆豆腐が湧き上がる。

 最後に白ネギのみじん切りとニラを入れ、鍋の底を焦がすように熱していく。

 そうだ、この香りが重要なんだ。
 浮かんだ油も重要だ。
 麻婆豆腐に乳化は厳禁、器に盛り付ければ完成だ。

◇◆◇

 程なくしてわらわの前に熱々の麻婆豆腐が供された。
 キラキラと光る赤褐色の油が器の縁まで満ちている豆腐と挽き肉が織りなす景色の上に、刻まれたネギが緑の点々となって散らばる優美なものだ。

 匙を手に取り、ゆっくりと豆腐を掬い上げる。
 赤々と脂にまみれた唐辛子と花椒の豊かな香りと言ったらたまらない。
 
 口に運ぶ前に、一瞬だけ目を閉じ、深呼吸をする。
 そして、ゆっくりと一口――

 最初に感じたのは、豆腐のなめらかさ。
 滑らかな舌触りの豆腐が沈丁花のようにたゆたい、直後に対照的な挽肉の歯ごたえが適度なアクセントとなって口に広がる。

 味わいの第一波は、麻の味わい。

 山椒の痺れるような刺激が、舌先から口内全体へと広がる。
 それは痛みではなく、むしろ心地がよい味わいとなる。

 その刺激が収まる前に、唐辛子の辛さが後を追うように襲ってくる――辣の味わい、辛さは決して攻撃的ではない。

 むしろ、豆腐のまろやかさ、挽肉の旨味を受け止めて痺れと辛さが交錯する中で、多様な豆板醤の複雑な旨味が顔を覗かせている。
 発酵による深い旨味が、この料理に与える奥行きは大きい。

 辛い――辛いからこそ食が進む。
 二口目、三口目と進むにつれ、味の層が徐々に明らかになっていく。

 にんにくのパンチの効いた風味が嬉しい。
 生姜の清々しい香りが心地いい。
 ネギの瑞々しい食感がアクセントとなり。そして豆鼓の塩味が、それぞれの存在感を主張し始めるころ――妾は、唇の端からほんの少しだけ汗が滲むのを感じた。

 それは苦痛ではなく、むしろ心地よい興奮のようなものだ。
 体の内側から熱が湧き上がってくるような感覚に包まれるのは、それだけの熱量が料理に込められているからに他ならない。

 普段の家で作る麻婆豆腐とは違う。
 本格的な熱と油の饗宴がなければ、こうはならない。

「うむ、美味である」
 
 最後の一口を口に運び終える頃には、心地よい疲労感とともに、目の前にいる少年の料理に込められた真摯な思いが伝わってきた。ほのかな感謝と何よりも料理を喜んでもらおうといいう強い意志――神にとっては、これが何よりの馳走であることは説明に難くない。

 空いた皿が静かにテーブルの上に鎮座するのを見て、妾は静かに両手を合わせた。

――ごちそうさまでした。

 神としては不幸中の幸いと言ったところか、何か礼をせねばなるまいな――

◇◆◇

 神様が家にやってきてからというもの――
 俺の人生は文字通り一変した。

 いまいち人がこなかった店も、最近の町中華ブームの影響か。
 本格的な味わいが評価され、多くの客が訪れるようになった。

「うむ、麻婆豆腐セット一丁、青椒肉絲セット一丁じゃ」

 だが、一番の影響は家賃代わりに仕事を手伝うようになった、神様の影響が大きいのだろう。

 彼女の祠がいつ再建されるのかは分からないが――
 俺は今、幸せな時間を過ごしている。
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