ハシダ シュンスケ:kawaiii::cool_doggo: on Nostr: 「今からするのは、存在しないサーバーの話です」 ...
「今からするのは、存在しないサーバーの話です」
かつて存在した「おばけすきー」というインスタンスを知っている人は
には少ないでしょうが、小規模のサーバーにそういう場所があって、曰く付きのアイテムや場所に行った写真を紹介しあうオカルト好きのためのサーバーだったんですよ。
百人もユーザーがいない小規模なサーバーで、それこそディスコードで出来るような身内向けのお遊びだったんですが、意外とオカルト好きな人はいるもので、チラホラと人が来るにつれて、不可解な物が思ったよりも集まるようになってしまったんです。
例えば、全国津々浦々で見つかる同じようなシールだとか、同じ格好をした女性が、心霊スポットの写真に移り込んでいるとか、関係ない神社やお寺で、同じ人形が備えられているとか、見つけた人たちは怖がりながらも、身近な場所で不可解な行為が引き起こされることに半ば喜んで、情報を載せだしたんです。
やれ「うちの近所の町でもシールが見つかった」とか
やれ「あの女が、近くの峠で見つかった」とか
やれ「リサイクルショップにあの人形があった」とか
ちょっとでも似ている不可解なものがあれば、報告し写真を撮り、それを誰かがまとめて有ること無いことリアクションを送り合う。
本来であれば関係のないはずの事象が、まるで陰謀論のように線で結ばれて、気づけば在ることにされてしまう。
それでも、人がいないうちは、別にどうということはない趣味の域に収まっていました。あれは確か、去年の六月、
にたくさんの人が集まってきたころです。
「おばけすきー」にも、人がざっと増えてサーバーにいた人が、集めてきた情報に目を通す人が増えました。
彼らにとっても、目新しいホラーな話題には飢えていたのでしょう。捜索範囲はぐっと拡大し、彼らはあることに気づきました。
あるのです。
どこでも、それが見つかってしまうのです。
単純なそれでいて模倣しがたい同じ図柄のシールが、都会や田舎に関わらず、ありとあらゆる場所で見つかってしまうのです。
日程は違うとはいえ、心霊スポットに行く人々は、女を見てしまうのです。ある程度、有名な廃墟から車でないといけないような隧道まで、彼女の写真でTLは埋め尽くされました。
そして、人形が見つかるのです。
髪から衣服まで同じ人形が、見つかってしまうのです。
気づけば数百人にまで膨れ上がった「おばけすきー」の住人は、半ば恐怖しつつも、魅入られるように情報を集め「なぜそうなったのか」を考えるようになりました。
見間違いか、あるいは誰かの自作自演なのか。
一人の人間が、これほど広い場所に迎えるものなのか。
自分たちと同じようなことをしているサーバーがあるのか。
そうして議論が白熱する中で、一人のユーザーがこんなことを言い出しました。
「女に直接話を聞こう」
それは、あまりにも確実過ぎる名案でした。
おばけすきーにいた人々は、これがもうただの思い込みであると決めつけることは出来ませんでした。
陰謀論にしろ、いたずらにしろ、女に直接問いただしてしまえば答えが出るのです。それが例えどんな結果になろうとも、投げかけられた問いに答えが見いだされなければ、人はダメになってしまう生き物なのです。
それからというもの「おばけすきー」の人々は、今まで以上に心霊スポットに足を運びました。シールや写真、女だけではなく、ここでは語れない曰く付きなモノの画像も本当にたくさん集まりました。
ここでは語れない悍ましいことが起きました。
けが人は日に日に増えていきました。
悲鳴だけ残して、消えた人もいました。
そんな二か月間の捜索の甲斐もあってか、女についての情報はチラホラと集まりはじめました。
やはり女は一人でした。
一日に二か所以上の場所で女が出ることはありませんでした。シールと人形は、彼女が行った場所に残されていました。あるいは、シールがあった場所に女が行き、女が行った場所に人形が残されていました。
やはりーーこれは、陰謀論ではなく、現代的な怪異なのだ。
そうサーバーのメンバーが気づいたころには、おばけすきーの住民は一五〇人ほどに減っていました。
彼らはもう、後に引くことは出来ませんでした。
残された住民は幸い全国に居ました。
彼らは推論をして、女の行動パターンを予測しました。
シールがあって、人形が見つかっていない場所に女は来るのです。待ち伏せて、話を聞き、事情を知ればこの「惨劇」は終わるのだと、サーバーにいた誰もが思うほど、彼らはもう疲れ切っていました。
その日、八月のうだるような暑さの中、あるダムにかかる橋の傍で一人の住民が張り込んでいました。夜中なのに陽炎が立ちそうなほど、咽るような暑さの日でした。
通りからは外れた、該当のない場所に座り込み、おばけすきーを見ていたところで、目の前に、誰かの気配が通り過ぎたことに気づきました。
視線を上げると、女がいました。
女には――
すみません。この文章を読んでもらうことが、彼女に許してもらえる唯一の方法であり、あなたはもう逃げることが出来ません。ぜひ
をして他の人にも教えてあげてください。
それからというもの、彼女は一日に複数の場所で見られるようになりました。人形が置かれてから、シールが増えるようになりました。
もう、サーバーを見ることすら、出来なくなりました。
あの場所に集まった多くの良くないものへの縁を、彼女が結んでしまったからです。
おばけすきーは、閉鎖されてしまいました。
だからこれは、(もう)存在しないサーバーの話です。
噂ではサーバー管理者は、女性の方でした。
もし、これを読んだ人が、彼女に会って「おばけすきー」のことを聞くことができたら、なんであんなサーバーを作ってしまったのか聞いて、私に教えてください。
彼女は、いま、私たちが思う以上にいっぱいいます。
(この話はフィクションです。
)
かつて存在した「おばけすきー」というインスタンスを知っている人は
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百人もユーザーがいない小規模なサーバーで、それこそディスコードで出来るような身内向けのお遊びだったんですが、意外とオカルト好きな人はいるもので、チラホラと人が来るにつれて、不可解な物が思ったよりも集まるようになってしまったんです。
例えば、全国津々浦々で見つかる同じようなシールだとか、同じ格好をした女性が、心霊スポットの写真に移り込んでいるとか、関係ない神社やお寺で、同じ人形が備えられているとか、見つけた人たちは怖がりながらも、身近な場所で不可解な行為が引き起こされることに半ば喜んで、情報を載せだしたんです。
やれ「うちの近所の町でもシールが見つかった」とか
やれ「あの女が、近くの峠で見つかった」とか
やれ「リサイクルショップにあの人形があった」とか
ちょっとでも似ている不可解なものがあれば、報告し写真を撮り、それを誰かがまとめて有ること無いことリアクションを送り合う。
本来であれば関係のないはずの事象が、まるで陰謀論のように線で結ばれて、気づけば在ることにされてしまう。
それでも、人がいないうちは、別にどうということはない趣味の域に収まっていました。あれは確か、去年の六月、
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「おばけすきー」にも、人がざっと増えてサーバーにいた人が、集めてきた情報に目を通す人が増えました。
彼らにとっても、目新しいホラーな話題には飢えていたのでしょう。捜索範囲はぐっと拡大し、彼らはあることに気づきました。
あるのです。
どこでも、それが見つかってしまうのです。
単純なそれでいて模倣しがたい同じ図柄のシールが、都会や田舎に関わらず、ありとあらゆる場所で見つかってしまうのです。
日程は違うとはいえ、心霊スポットに行く人々は、女を見てしまうのです。ある程度、有名な廃墟から車でないといけないような隧道まで、彼女の写真でTLは埋め尽くされました。
そして、人形が見つかるのです。
髪から衣服まで同じ人形が、見つかってしまうのです。
気づけば数百人にまで膨れ上がった「おばけすきー」の住人は、半ば恐怖しつつも、魅入られるように情報を集め「なぜそうなったのか」を考えるようになりました。
見間違いか、あるいは誰かの自作自演なのか。
一人の人間が、これほど広い場所に迎えるものなのか。
自分たちと同じようなことをしているサーバーがあるのか。
そうして議論が白熱する中で、一人のユーザーがこんなことを言い出しました。
「女に直接話を聞こう」
それは、あまりにも確実過ぎる名案でした。
おばけすきーにいた人々は、これがもうただの思い込みであると決めつけることは出来ませんでした。
陰謀論にしろ、いたずらにしろ、女に直接問いただしてしまえば答えが出るのです。それが例えどんな結果になろうとも、投げかけられた問いに答えが見いだされなければ、人はダメになってしまう生き物なのです。
それからというもの「おばけすきー」の人々は、今まで以上に心霊スポットに足を運びました。シールや写真、女だけではなく、ここでは語れない曰く付きなモノの画像も本当にたくさん集まりました。
ここでは語れない悍ましいことが起きました。
けが人は日に日に増えていきました。
悲鳴だけ残して、消えた人もいました。
そんな二か月間の捜索の甲斐もあってか、女についての情報はチラホラと集まりはじめました。
やはり女は一人でした。
一日に二か所以上の場所で女が出ることはありませんでした。シールと人形は、彼女が行った場所に残されていました。あるいは、シールがあった場所に女が行き、女が行った場所に人形が残されていました。
やはりーーこれは、陰謀論ではなく、現代的な怪異なのだ。
そうサーバーのメンバーが気づいたころには、おばけすきーの住民は一五〇人ほどに減っていました。
彼らはもう、後に引くことは出来ませんでした。
残された住民は幸い全国に居ました。
彼らは推論をして、女の行動パターンを予測しました。
シールがあって、人形が見つかっていない場所に女は来るのです。待ち伏せて、話を聞き、事情を知ればこの「惨劇」は終わるのだと、サーバーにいた誰もが思うほど、彼らはもう疲れ切っていました。
その日、八月のうだるような暑さの中、あるダムにかかる橋の傍で一人の住民が張り込んでいました。夜中なのに陽炎が立ちそうなほど、咽るような暑さの日でした。
通りからは外れた、該当のない場所に座り込み、おばけすきーを見ていたところで、目の前に、誰かの気配が通り過ぎたことに気づきました。
視線を上げると、女がいました。
女には――
すみません。この文章を読んでもらうことが、彼女に許してもらえる唯一の方法であり、あなたはもう逃げることが出来ません。ぜひ
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それからというもの、彼女は一日に複数の場所で見られるようになりました。人形が置かれてから、シールが増えるようになりました。
もう、サーバーを見ることすら、出来なくなりました。
あの場所に集まった多くの良くないものへの縁を、彼女が結んでしまったからです。
おばけすきーは、閉鎖されてしまいました。
だからこれは、(もう)存在しないサーバーの話です。
噂ではサーバー管理者は、女性の方でした。
もし、これを読んだ人が、彼女に会って「おばけすきー」のことを聞くことができたら、なんであんなサーバーを作ってしまったのか聞いて、私に教えてください。
彼女は、いま、私たちが思う以上にいっぱいいます。
(この話はフィクションです。
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